オーステナイト系ステンレス鋼は冷間加工に適した合金で、延性や靭性に優れています。さらに溶接性や耐食性も良好なため、幅広い用途に適用可能です。本記事では、オーステナイト系ステンレス鋼の特徴や加工方法について、詳しく説明します。ステンレス鋼の知識を増やして加工に役立てたい方は、最後までご覧ください。
オーステナイト系ステンレス鋼とは?
オーステナイト系ステンレス鋼は延性や靭性、耐食性に優れ、冷間加工性が良好な合金です。冷間加工とは、主に室温で加工する方法を指し「加工硬化」を伴います。加工硬化とは、加工によって材料の硬さが向上する現象のことです。オーステナイト系ステンレス鋼の場合、比較的軟らかい「オーステナイト組織」が、硬い「マルテンサイト組織」へ変化します。
オーステナイト組織は、オーステナイト系ステンレス鋼のメインとなる組織であり、鋼を900℃程度に加熱したときに発現します。粘り気があるため靭性に優れ、磁石につかない性質を有することが特徴です。
一方でマルテンサイト組織は、オーステナイト組織を高温から室温へ急冷したときに得られる組織です。一般的に冷却速度が遅い場合は、鉄に溶けていたC(炭素)は析出します。しかし冷却速度が速いと、Cが析出する時間は短くなり、析出されないまま鉄に残存します。このような過程を経て、硬いCを含んだ組織がマルテンサイト組織です。
そもそもステンレス鋼とは、約12%以上のCr(クロム)を含む鋼のことです。Crが「不動態皮膜」と呼ばれる酸化皮膜を形成し、鋼の腐食を防ぎます。そのためCr量が増加するにつれて、耐食性は向上します。ステンレス鋼は用途に合わせて、様々な種類に分けられることが特徴です。具体的には、主に4種類に分類できます。
・マルテンサイト系ステンレス鋼
・フェライト系ステンレス鋼
・オーステナイト系ステンレス鋼
・二相系ステンレス鋼
この中でも延性や靭性に優れている種類が、オーステナイト系ステンレス鋼です。オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な合金は、SUS304やSUS316です。用途に応じて添加元素が加えられ、様々な種類が存在しています。オーステナイト系ステンレス鋼の基本となる合金はSUS304で、向上させたい特性に合わせて以下の合金が開発されてきました。
・SUS316、SUS317:耐酸・耐食性を高めるため、SUS304にMo(モリブデン)を添加
・SUS304L:耐粒界腐食を高めるため、Cを0.030%以下に抑制
・SUS321、SUS347:耐粒界腐食を高めるため、Ti(チタン)やNb(ニオブ)を添加
・SUSXM15J1:耐酸化性を高めるため、Si(シリコン)を添加
・SUS309S、SUS310S:耐熱・耐酸化性を高めるため、CrとNi(ニッケル)を添加
・SUS304J3、SUSXM7:加工硬化性を抑えるため、Cu(銅)を添加
・SUS304N1、SUS316N:強度を高めるため、N(窒素)を添加
オーステナイト組織は、オーステナイト系ステンレス鋼のメインとなる組織であり、鋼を900℃程度に加熱したときに発現します。粘り気があるため靭性に優れ、磁石につかない性質を有することが特徴です。
一方でマルテンサイト組織は、オーステナイト組織を高温から室温へ急冷したときに得られる組織です。一般的に冷却速度が遅い場合は、鉄に溶けていたC(炭素)は析出します。しかし冷却速度が速いと、Cが析出する時間は短くなり、析出されないまま鉄に残存します。このような過程を経て、硬いCを含んだ組織がマルテンサイト組織です。
そもそもステンレス鋼とは、約12%以上のCr(クロム)を含む鋼のことです。Crが「不動態皮膜」と呼ばれる酸化皮膜を形成し、鋼の腐食を防ぎます。そのためCr量が増加するにつれて、耐食性は向上します。ステンレス鋼は用途に合わせて、様々な種類に分けられることが特徴です。具体的には、主に4種類に分類できます。
・マルテンサイト系ステンレス鋼
・フェライト系ステンレス鋼
・オーステナイト系ステンレス鋼
・二相系ステンレス鋼
この中でも延性や靭性に優れている種類が、オーステナイト系ステンレス鋼です。オーステナイト系ステンレス鋼の代表的な合金は、SUS304やSUS316です。用途に応じて添加元素が加えられ、様々な種類が存在しています。オーステナイト系ステンレス鋼の基本となる合金はSUS304で、向上させたい特性に合わせて以下の合金が開発されてきました。
・SUS316、SUS317:耐酸・耐食性を高めるため、SUS304にMo(モリブデン)を添加
・SUS304L:耐粒界腐食を高めるため、Cを0.030%以下に抑制
・SUS321、SUS347:耐粒界腐食を高めるため、Ti(チタン)やNb(ニオブ)を添加
・SUSXM15J1:耐酸化性を高めるため、Si(シリコン)を添加
・SUS309S、SUS310S:耐熱・耐酸化性を高めるため、CrとNi(ニッケル)を添加
・SUS304J3、SUSXM7:加工硬化性を抑えるため、Cu(銅)を添加
・SUS304N1、SUS316N:強度を高めるため、N(窒素)を添加
オーステナイト系ステンレス鋼の加工方法
オーステナイト系ステンレス鋼では、下記の加工方法が使用されます。
・溶接加工
・曲げ加工
・切削加工
それぞれの特徴について、詳しく理解しましょう。
・溶接加工
・曲げ加工
・切削加工
それぞれの特徴について、詳しく理解しましょう。
溶接加工
溶接加工とは熱や負荷をかけて、種類が異なる金属を接合する方法です。大きく「溶融法」「圧接法」「ろう付け」の3つに分類できます。
溶融法は材料を溶かして接合する方法で、厚みのある板材にも適用可能です。一般的に使用される方法であり、生産現場では技術者が手作業で溶接します。そのため、作業者による品質の差が生じやすいことに注意が必要です。
圧接法は摩擦や爆発による熱を利用して、圧力をかけながら接合する方法です。機械で数値制御しながら溶接するため、人手不足の心配はいりません。自動車分野では、電極で通電して加熱し、作業効率に優れた「スポット溶接」が使用されています。
ろう付けは、金属材料より融点が低い「ろう」を溶かして接合する方法です。ろうが金属同士を結合させる「接着剤」の役割を果たしています。このとき金属材料は溶融しないため、母材を傷める心配は不要です。ただし、厚みが大きい材料は強度が低くくなるので、用途は限定されます。
オーステナイト系ステンレス鋼は溶接性に優れていますが、低い耐食性を示す可能性があるため要注意です。なぜなら500~800℃で加熱するとCr炭化物が粒界に析出し、その分だけ周りのCr量が減少するからです。Cr炭化物を形成するためには、一定量のCrが必要になり、粒界付近の成分が優先的に使用されます。したがって、耐食性を向上させるCrが少なくなり、腐食が生じてしまいます。
またオーステナイト系ステンレス鋼は、600~800℃でσ(シグマ)相(鉄とCrの化合物)が析出し、延性や靭性が低下するので注意が必要です。溶接加工の際は、σ相が析出する温度域を避けると良いでしょう。
溶融法は材料を溶かして接合する方法で、厚みのある板材にも適用可能です。一般的に使用される方法であり、生産現場では技術者が手作業で溶接します。そのため、作業者による品質の差が生じやすいことに注意が必要です。
圧接法は摩擦や爆発による熱を利用して、圧力をかけながら接合する方法です。機械で数値制御しながら溶接するため、人手不足の心配はいりません。自動車分野では、電極で通電して加熱し、作業効率に優れた「スポット溶接」が使用されています。
ろう付けは、金属材料より融点が低い「ろう」を溶かして接合する方法です。ろうが金属同士を結合させる「接着剤」の役割を果たしています。このとき金属材料は溶融しないため、母材を傷める心配は不要です。ただし、厚みが大きい材料は強度が低くくなるので、用途は限定されます。
オーステナイト系ステンレス鋼は溶接性に優れていますが、低い耐食性を示す可能性があるため要注意です。なぜなら500~800℃で加熱するとCr炭化物が粒界に析出し、その分だけ周りのCr量が減少するからです。Cr炭化物を形成するためには、一定量のCrが必要になり、粒界付近の成分が優先的に使用されます。したがって、耐食性を向上させるCrが少なくなり、腐食が生じてしまいます。
またオーステナイト系ステンレス鋼は、600~800℃でσ(シグマ)相(鉄とCrの化合物)が析出し、延性や靭性が低下するので注意が必要です。溶接加工の際は、σ相が析出する温度域を避けると良いでしょう。
曲げ加工
曲げ加工とは、材料を曲げることで任意の形状に加工する方法です。金属は、ある程度曲げても元の形状に戻る性質があります。しかし曲げるときの負荷が大きい場合、形状は戻ることなく変形します。
曲げ加工に使用する金型は「パンチ」と「ダイ」です。上側にパンチ、下側にダイを使用して材料を挟み加工します。曲げ加工には様々な種類があり、最終製品の形状に合わせて適切な使い分けが重要です。主な加工方法を紹介します。
・ボトミング(底突き曲げ):V字型の金型で高精度に加工
・コイニング(圧印曲げ):V字型の金型で高負荷をかけて加工
・自由曲げ(パーシャルベンディング):形状に合う金型がない場合に使用
・R曲げ:R型の金型で、カーブを描く形状に加工
・ロール曲げ:ロールベンダーと呼ばれる機械で曲面状に加工
・段曲げ(Z曲げ):段差上に加工
・送り曲げ(FR曲げ):V字型の金型でカーブを描く形状に加工
・ヘミング曲げ:板材の端部を180度曲げて加工
ステンレス鋼を曲げ加工する際、スプリングバックに注意が必要です。スプリングバックとは、加工前の形状に戻ろうとする性質のことで、ステンレス鋼は大きくスプリングバックが発生します。そのため元に戻る寸法を考慮したうえで、曲げ角度の調整が必要です。
曲げ加工に使用する金型は「パンチ」と「ダイ」です。上側にパンチ、下側にダイを使用して材料を挟み加工します。曲げ加工には様々な種類があり、最終製品の形状に合わせて適切な使い分けが重要です。主な加工方法を紹介します。
・ボトミング(底突き曲げ):V字型の金型で高精度に加工
・コイニング(圧印曲げ):V字型の金型で高負荷をかけて加工
・自由曲げ(パーシャルベンディング):形状に合う金型がない場合に使用
・R曲げ:R型の金型で、カーブを描く形状に加工
・ロール曲げ:ロールベンダーと呼ばれる機械で曲面状に加工
・段曲げ(Z曲げ):段差上に加工
・送り曲げ(FR曲げ):V字型の金型でカーブを描く形状に加工
・ヘミング曲げ:板材の端部を180度曲げて加工
ステンレス鋼を曲げ加工する際、スプリングバックに注意が必要です。スプリングバックとは、加工前の形状に戻ろうとする性質のことで、ステンレス鋼は大きくスプリングバックが発生します。そのため元に戻る寸法を考慮したうえで、曲げ角度の調整が必要です。
切削加工
切削加工は、工具を用いて材料を削る加工方法です。曲げ加工や鋳造などの加工方法とは異なり、金型を準備する必要はありません。さらに高い精度が得られるうえ、様々な材料に適用できることが特徴です。
切削加工は、材料を回転させて丸い形状に切削する「旋削加工」と、固定した材料を工具で削る「転削加工」があります。ステンレス鋼を加工する際、以下2つの特徴を押さえることが大切です。
・ステンレス鋼の熱伝導率は低い
・加工硬化する
ステンレス鋼は、添加元素を含まない鉄に比べて、熱伝導率が2分の1以下です。したがって、切削加工で発生した熱が逃げにくく、工具に蓄積する現象が発生します。熱がたまると工具はダメージを受けるため、冷却しながら加工したり切削速度を遅くしたりする対策が必要です。
ステンレス鋼は加工硬化によって加工中に材料が硬くなるので、生産性の低下や工具の損傷といった課題があります。オーステナイト系ステンレス鋼は、特に加工硬化しやすい合金のため、加工する際は経験豊富な企業へ外注すると良いでしょう。
切削加工は、材料を回転させて丸い形状に切削する「旋削加工」と、固定した材料を工具で削る「転削加工」があります。ステンレス鋼を加工する際、以下2つの特徴を押さえることが大切です。
・ステンレス鋼の熱伝導率は低い
・加工硬化する
ステンレス鋼は、添加元素を含まない鉄に比べて、熱伝導率が2分の1以下です。したがって、切削加工で発生した熱が逃げにくく、工具に蓄積する現象が発生します。熱がたまると工具はダメージを受けるため、冷却しながら加工したり切削速度を遅くしたりする対策が必要です。
ステンレス鋼は加工硬化によって加工中に材料が硬くなるので、生産性の低下や工具の損傷といった課題があります。オーステナイト系ステンレス鋼は、特に加工硬化しやすい合金のため、加工する際は経験豊富な企業へ外注すると良いでしょう。
オーステナイト系ステンレス鋼の組織
オーステナイト系ステンレス鋼は、一般的に「固溶化熱処理」を施した後に製品として用いられます。固溶化熱処理とは、特定の添加元素が析出することなく、母相に溶け込ませるために高温で実施する熱処理です。
オーステナイト系ステンレス鋼では、機械的特性に悪影響を及ぼすCr炭化物の析出を防ぐために、固溶化熱処理を施します。たとえば、JIS規格(日本工業規格)で定められているSUS304の熱処理条件は「1010~1150℃、急冷」です。
固溶化熱処理には、冷間加工や溶接時に発生したひずみを除去する役割や、材料を軟化させる効果があります。適切な条件で熱処理すると、炭化物を含まないオーステナイト組織が得られます。
しかし冷間加工を行った場合、オーステナイト組織がマルテンサイト組織に変化するので注意が必要です。加工時に負荷がかかるとマルテンサイト組織が安定になり、硬い性質を示すので脆くなってしまいます。
加工硬化を抑制するためには、CやNの含有量が低く設定されたステンレス鋼を使うと良いでしょう。具体例としてSUSXM7が挙げられ、ねじやボルトなどに使用されています。
オーステナイト系ステンレス鋼では、機械的特性に悪影響を及ぼすCr炭化物の析出を防ぐために、固溶化熱処理を施します。たとえば、JIS規格(日本工業規格)で定められているSUS304の熱処理条件は「1010~1150℃、急冷」です。
固溶化熱処理には、冷間加工や溶接時に発生したひずみを除去する役割や、材料を軟化させる効果があります。適切な条件で熱処理すると、炭化物を含まないオーステナイト組織が得られます。
しかし冷間加工を行った場合、オーステナイト組織がマルテンサイト組織に変化するので注意が必要です。加工時に負荷がかかるとマルテンサイト組織が安定になり、硬い性質を示すので脆くなってしまいます。
加工硬化を抑制するためには、CやNの含有量が低く設定されたステンレス鋼を使うと良いでしょう。具体例としてSUSXM7が挙げられ、ねじやボルトなどに使用されています。
オーステナイト系ステンレス鋼の用途
オーステナイト系ステンレス鋼は優れた特性を有するため、幅広い用途に適用可能です。たとえば、SUS304やSUS316の汎用的なステンレス鋼は耐食性にも優れるため、家庭用品や自動車部品、化学工業分野、プラントなどに使用されています。
粒界腐食に強いSUS321やSUS347は、発電用ボイラーや石油精製、化学工業の熱交換器に用いられます。また耐食性に優れるステンレス鋼は、ごみ廃却炉の部品や硫酸製造プラントのクーラーに使用可能です。非磁性ステンレス鋼は、リニアモーターカーの推進ボルトに用いられています。
粒界腐食に強いSUS321やSUS347は、発電用ボイラーや石油精製、化学工業の熱交換器に用いられます。また耐食性に優れるステンレス鋼は、ごみ廃却炉の部品や硫酸製造プラントのクーラーに使用可能です。非磁性ステンレス鋼は、リニアモーターカーの推進ボルトに用いられています。