C2600 と C2680 の違いを徹底比較|設計・加工・調達で失敗しないための実務ガイド
銅合金の選定で「C2600 と C2680、どちらを使うべきか?」という質問は設計・加工現場で非常に多いものです。見た目は似た黄銅(ブラス)でも、化学組成の違いが加工性、強度、めっき性、耐食性、そして調達性にまで影響を与えます。本記事では、材料の基礎(成分・特性)から、加工上のポイント、実務での選定基準、代表的用途まで分かりやすく整理し、設計・製造・調達の現場で即使える知識をお届けします。
目次
まず押さえるべき要点(要約)
- C2600:Cu約68.5–71.5%(一般にCu70%相当)、Zn約30%前後。延性・絞り性に優れ、深絞りや成形用途に強い。めっき性・電気伝導性も良好。
- C2680:Cu約64–68%(おおむねCu約66%前後、Zn比が若干高い)。C2600よりやや高い強度・耐摩耗性を持ち、切削加工性に優れることが多い。
- 設計では「加工方法(深絞り/切削)」「強度要件」「めっきや表面処理の有無」「コスト・入手性」を軸に選定するのが実務的です。
規格・相当材の確認:まずはJISを参照
JISの規格(日本産業規格)と各国の相当材を照合すると、C2600 は CuZn30 系、C2680 は CuZn33 系に該当するケースが一般的です。詳細な化学成分・公差等は必ず規格書で確認してください(公式情報は JIS を参照)。また多くのメーカー技術資料や国際規格表でも C26000(UNS)/C26800(UNS)といった表記で参照できます。
化学組成の違いとその意味
同じ「黄銅」でも銅(Cu)と亜鉛(Zn)の比率が変わると、材料の挙動は確実に変化します。以下は一般的な範囲(代表値)です。
| 項目 | C2600(一般) | C2680(一般) |
|---|---|---|
| Cu(銅) | 約68.5〜71.5 wt% | 約64〜68 wt% |
| Zn(亜鉛) | 残部(約29〜31%) | 残部(約32〜36%) |
| 鉛(Pb)・その他 | 微量(トレース) | 微量(トレース) |
亜鉛含有量が増えると一般に強度が向上し、反面延性(引張伸び)や絞り性は低下する傾向があります。そのため、深絞りや薄物の成形ではC2600が選ばれ、切削や機械的強度を優先する部品ではC2680が向くことが多いのです。
機械的性質(引張強さ・伸び・硬さ)の比較
公称値はメーカー・板厚・加工状態(軟状態、加工硬化、熱処理)に依存しますが、一般的傾向を示します。
| 特性 | C2600(目安) | C2680(目安) |
|---|---|---|
| 引張強さ(MPa) | 約300〜450 | 約320〜480 |
| 伸び(%) | 高い(良好な延性) | やや低め(C2600より低) |
| 硬さ(HB等) | 低〜中 | 中〜やや高め |
実務では、板状材や条材の「調質(熱処理)」「鍛造/冷間加工の有無」によって数値が変化します。設計時は必ず材料証明書(MTR)やメーカー技術データを確認してください。
成形性・深絞り性・冷間加工の違い
C2600 は「深絞り・プレス成形」に優れる材料として知られています。延性が高く、薄板からの複雑成形や深絞り加工で良好な結果が得られます。対して C2680 はやや強度側に振れているため、深絞り性はC2600に劣ることがあり、成形工程では注意が必要です。
成形工程で迷った場合は、材料の初期延性(伸び)、板厚、成形倍率を総合評価して選定してください。成形性が最優先であれば「C2600 を軸に検討する」ことが多いです。
切削加工性(機械加工)について
切削加工(旋盤・フライス・穴あけ)においては、亜鉛含有量がやや高い C2680 の方が切削抵抗が低く、刃具寿命が長い・加工面が安定しやすい</strong場合があります。特に自動車部品や高強度が必要な小物で切削が主工程の場合は C2680 が採用されるケースが多いです。
ただし加工性は工具材質、切削条件、潤滑(切削油)によって大きく変わるため、必ず加工試験を実施して最適条件を決める運用が重要です。
めっき性・表面処理・はんだ付け
黄銅はめっきやはんだ付け、電気めっきに対して一般的に良好な親和性を示しますが、銅率が高いほどめっき密着性や導電性に有利です。C2600 はめっき性や電気伝導性で若干優れる傾向があり、電気部品や装飾品での採用が多い一方、C2680 は強度寄りの用途で選ばれます。
耐食性と環境条件
両材料とも一般雰囲気下で優れた耐食性を示しますが、黄銅は「脱亜鉛(dezincification)」や「応力腐食割れ(stress corrosion cracking)」の影響を受けやすい点に注意が必要です。亜鉛含有量が高いと脱亜鉛のリスクが増すため、塩水や酸性環境では使用条件を慎重に評価してください。
環境に応じた対策(めっき、表面処理、陽極処理、合金選定の見直し)を必ず検討してください。
代表的な用途(C2600 / C2680 の使い分け)
- C2600(Cu約70%):深絞り部品、装飾品、電気接点・接続端子(導電性を活かす場合)、薄板成形部品、めっき前提の部品。
- C2680(Cu約64–68%):高強度を要する機械部品、小物の切削部品、耐摩耗性を求める部品、一般的な機械加工部品。
調達とコスト:入手性・価格感のポイント
同一メーカー・同一寸法なら大差ない場合が多いものの、板厚・供給形状(帯材、板、丸棒)や在庫状況によって価格差が出ます。C2600 は深絞り用途での需要が大きく、特定の寸法では安定供給されやすい一方、C2680 は切削材としての需要により加工業者向け在庫が厚いことが多いです。発注時は「材質記号+形状(板/丸棒)+板厚/寸法」を明確に指定することが誤発注を防ぐ最も簡単な方法です。
内部での納入指示書や図面には、下記のように記載例を残すと有効です:
材質:C2600(JIS C2600) 板厚:t=1.0mm ±0.05 / 表面処理:ニッケルめっき
試験・検査ポイント:受入検査で確認すべき項目
受入時は以下をチェックリスト化してください。
- 材料証明書(MTR)の化学成分とロット一致
- 寸法(板厚・幅・長さ)と公差
- 引張強さ・伸び(必要に応じてバッチ試験)
- 表面品質(めっきの前処理や脱亜鉛リスクの有無)
- 曲げ・絞り試験(成形用途の場合は代表サンプルで確認)
製造現場のチェックリスト(加工者向け)
- 成形:伸び率とパンチ/ダイのクリアランスを事前算出する。
- 切削:切削速度・刃物材質・コーティングを試験で決定する。
- めっき前処理:脱脂・酸洗条件を管理する。
- 熱処理:黄銅は一般に熱処理で強度を大きく変えないが、時に応力緩和が必要な場合はアニーリングを検討する。
比較表(実務でよく参照するポイント)
| 観点 | C2600 | C2680 |
|---|---|---|
| Cu含有量 | 高(≈68.5–71.5%) | 中(≈64–68%) |
| 延性・絞り性 | 非常に良好 | 良好だがC2600程ではない |
| 切削性 | 良好(ただし切削条件次第) | より安定しやすい |
| 強度 | 標準的 | やや高め |
| めっき・仕上げ | 良好 | 良好 |
| 適用例 | 深絞り・装飾・薄板部品 | 切削部品・高強度小物部品 |
選定フローチャート(実務で使える簡易版)
- 部品は「深絞り/プレス成形」か「切削(機械加工)」かを判定。
- 深絞り→C2600 優先; 切削→C2680 を検討。
- 強度要件が高ければ C2680、伸びやめっき性が最優先なら C2600。
- 環境(塩水、酸性等)が厳しければ耐脱亜鉛対策を検討。
- 最終的には試作での評価(成形試験・切削試験)を必須とする。
実際の設計で役立つ注意点・ヒント
- 発注のキモ:図面に「C2600(JIS C2600)」と書き、形状(板/丸棒)、板厚、公差、表面処理を明記する。
- 成形工程:絞り比(ドロー比)やブランク寸法はC2600の延性利点を活かす設計にする。
- 切削工程:切削熱と切りくずの処理(チップブレーカー等)を検討。C2680では高速切削での安定性が期待できる。
- めっき前処理:脱脂・酸洗条件を厳守し、脱亜鉛リスクを低減する。実務用:内部参照(関連記事)
よくある質問
まとめ:設計・加工・調達での実務的な結論
C2600 と C2680 は用途によって明確に使い分けが可能な材料です。成形(深絞り・薄物成形)を優先するなら C2600、切削や高強度を優先するなら C2680を基本軸として検討してください。最終判断は材料証明・実加工試験をベースにすること。この記事では設計者・加工者・調達担当が「迷わない」ための実務的視点を提供しました。必要ならば、試作段階での評価手順や発注書テンプレートも用意できますのでお申し付けください。