マルテンサイト系ステンレス鋼は、マルテンサイト組織を有するステンレス鋼です。C(炭素)の含有量が多いため、熱処理によって硬さの向上を図れます。本記事では、マルテンサイト系ステンレス鋼の特徴や加工方法、用途について説明します。ステンレス鋼の知識を深め、実際の加工に役立てたい方は最後までご覧ください。
マルテンサイト系ステンレス鋼とは?
マルテンサイト系ステンレス鋼とは、Cr(クロム)を約11.5~18%含み、室温でもマルテンサイト組織を有する合金です。マルテンサイト組織とは、通常高温で熱処理すると得られる組織であり、高強度化や高耐食性に影響を及ぼす重要な組織です。
マルテンサイト系ステンレス鋼は、靭性や疲労強度をはじめとして機械的特性に優れ、耐食性にも優れています。また13Crマルテンサイト系ステンレス鋼は、残留オーステナイト組織(マルテンサイト組織よりも軟らかい組織)を含むため、被加工性も良好です。
マルテンサイト系ステンレス鋼は、靭性や疲労強度をはじめとして機械的特性に優れ、耐食性にも優れています。また13Crマルテンサイト系ステンレス鋼は、残留オーステナイト組織(マルテンサイト組織よりも軟らかい組織)を含むため、被加工性も良好です。
マルテンサイト系ステンレス鋼の種類
マルテンサイト系ステンレス鋼は、用途に応じて添加元素を調整するので、種類が多岐にわたります。例えば耐食性向上のためには、炭素量を少なくしたり、被削性を向上するために元素を添加したりします。代表的な種類は、下記のとおりです。
・SUS410:13Cr系マルテンサイト系ステンレス鋼の代表
・SUS403:耐食性・加工性向上のためにCとSi(シリコン)を添加
・SUS410S:耐食性・加工性向上のために微量のCを添加
・SUS410F2:被削性向上のため微量のCと、Pb(鉛)を添加
・SUS416:さらに被削性を高めるためS(硫黄)を添加
・SUS420J1:焼入硬化のためCを添加
・SUS420F2:SUS420J1をベースにPb添加
・SUS420J2:さらに焼入硬化のためCを添加
・SUS420F:SUS420J2をベースにS添加
・SUS440A:さらに焼入硬化のため、Cを多量添加
・SUS440B:SUS440AをベースにC添加
・SUS440C:SUS440BをベースにC添加
・SUS440F:SUS440Cをベースに、CとSを添加
・SUS431:耐食性や靭性向上のためCr量を高めて、Ni(ニッケル)を添加
・SUS410:13Cr系マルテンサイト系ステンレス鋼の代表
・SUS403:耐食性・加工性向上のためにCとSi(シリコン)を添加
・SUS410S:耐食性・加工性向上のために微量のCを添加
・SUS410F2:被削性向上のため微量のCと、Pb(鉛)を添加
・SUS416:さらに被削性を高めるためS(硫黄)を添加
・SUS420J1:焼入硬化のためCを添加
・SUS420F2:SUS420J1をベースにPb添加
・SUS420J2:さらに焼入硬化のためCを添加
・SUS420F:SUS420J2をベースにS添加
・SUS440A:さらに焼入硬化のため、Cを多量添加
・SUS440B:SUS440AをベースにC添加
・SUS440C:SUS440BをベースにC添加
・SUS440F:SUS440Cをベースに、CとSを添加
・SUS431:耐食性や靭性向上のためCr量を高めて、Ni(ニッケル)を添加
マルテンサイト系ステンレス鋼の特性
マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れによる高硬度化が可能です。熱処理後の硬度は、各合金に含まれる炭素量が高いほど高硬度を示します。ただし、脆い性質も有するため靭性回復を狙った「焼戻し」と呼ばれる熱処理も、焼入れと合わせて実施するケースが多くなります。
焼入れ・焼戻しは最終製品がどの程度の靭性を必要とするかを検討したうえで、熱処理温度や冷却方法を決めることが重要です。また、焼入れ直後の材料は硬いので、通常は焼きなまし状態にしたうえで加工を実施します。
マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性は、室温状態では十分のスペックを満たしています。ただし、酸やアルカリなどの厳しい環境下では、腐食が進行する懸念があるので要注意です。
耐食性向上のために、Crを添加したりC量増加を抑制したりすることで、最終製品のスペックに満たせる特性値に調整できます。例えばSUS431は、CrだけでなくNiも添加することで、良好な耐食性を実現しているステンレス鋼です。
焼入れ・焼戻しは最終製品がどの程度の靭性を必要とするかを検討したうえで、熱処理温度や冷却方法を決めることが重要です。また、焼入れ直後の材料は硬いので、通常は焼きなまし状態にしたうえで加工を実施します。
マルテンサイト系ステンレス鋼の耐食性は、室温状態では十分のスペックを満たしています。ただし、酸やアルカリなどの厳しい環境下では、腐食が進行する懸念があるので要注意です。
耐食性向上のために、Crを添加したりC量増加を抑制したりすることで、最終製品のスペックに満たせる特性値に調整できます。例えばSUS431は、CrだけでなくNiも添加することで、良好な耐食性を実現しているステンレス鋼です。
マルテンサイト系ステンレス鋼の加工方法
マルテンサイト系ステンレス鋼の加工方法は、その他ステンレス鋼と同様に様々な方法があります。具体的には下記のとおりです。
・切削加工
・曲げ加工
・溶接加工
それぞれの加工方法について特性を理解し、正しく加工できるようにすると良いでしょう。
・切削加工
・曲げ加工
・溶接加工
それぞれの加工方法について特性を理解し、正しく加工できるようにすると良いでしょう。
切削加工
切削加工は、材料に対して工作機械・工具で切削する加工方法です。材料を回転させて加工する「転削」と、工具を回転させて加工する「旋削」に分けられます。切削加工することで、高精度の製品を得られることが特徴です。マルテンサイト系ステンレス鋼はもちろん、様々な種類の素材に対応できるので、材料を選ばず加工できます。
一方で複雑な形状に加工したい場合、工具では物理的に切削できないケースも想定されます。また、ステンレス鋼は硬度が高いため工具がダメージを受けることに注意しましょう。超合金を用いた工具など耐摩耗性が良好な材料を選び、スムーズに加工することが重要です。ステンレス鋼の加工が不安な方は、実績が豊富なフィリールにご相談ください。
一方で複雑な形状に加工したい場合、工具では物理的に切削できないケースも想定されます。また、ステンレス鋼は硬度が高いため工具がダメージを受けることに注意しましょう。超合金を用いた工具など耐摩耗性が良好な材料を選び、スムーズに加工することが重要です。ステンレス鋼の加工が不安な方は、実績が豊富なフィリールにご相談ください。
曲げ加工
曲げ加工は、板状の材料に対して任意形状に曲げて加工する方法です。曲げる際は「ベンダー」と呼ばれる機械を使用し、以下の方法で加工を実施します。
・L曲げ:L字状に曲げて仕上げる
・V曲げ:V字状に曲げて仕上げる
・U曲げ:U字状に曲げて仕上げる
・Z曲げ:Z字状に曲げて仕上げる
・R曲げ:丸い工具を使用し、R字状に曲げて仕上げる
・O曲げ:円筒状に曲げて仕上げる
・ヘミング曲げ:板材の端部を180度に曲げて仕上げる
以上のように、曲げ加工では様々な形状に加工できるため、用途に合わせた形状設計が可能です。
・L曲げ:L字状に曲げて仕上げる
・V曲げ:V字状に曲げて仕上げる
・U曲げ:U字状に曲げて仕上げる
・Z曲げ:Z字状に曲げて仕上げる
・R曲げ:丸い工具を使用し、R字状に曲げて仕上げる
・O曲げ:円筒状に曲げて仕上げる
・ヘミング曲げ:板材の端部を180度に曲げて仕上げる
以上のように、曲げ加工では様々な形状に加工できるため、用途に合わせた形状設計が可能です。
溶接加工
溶接加工は、金属を加熱し溶融することで異種材料を接合する加工方法のことです。マルテンサイト系ステンレス鋼に適用する場合、熱影響部での割れ発生に注意しなければなりません。なぜなら、溶接によって加熱後に急冷が生じるため「焼入れ」が発生するからです。焼入れ直後の材料は、硬さが向上する一方で非常に脆くなるので割れやすくなります。
材料の知識を理解せずに加工すると、取り返しのつかない失敗をしかねません。加工で失敗したくない方は、加工業者や受託加工サービスを行う企業に相談すると良いでしょう。
材料の知識を理解せずに加工すると、取り返しのつかない失敗をしかねません。加工で失敗したくない方は、加工業者や受託加工サービスを行う企業に相談すると良いでしょう。
マルテンサイト系ステンレス鋼の組織
マルテンサイト系ステンレス鋼は、室温でもマルテンサイト組織を有しており、磁性を示すことが特徴です。熱処理を実施する前は、オーステナイト組織と呼ばれる軟らかい組織で構成されています。焼入れによる熱処理時、急激に冷却されるため炭素原子が移動する間もなく、熱処理が完了します。
そのため熱処理後は、元のオーステナイト組織の構造内に炭素原子が閉じ込められた状態です。この状態で形成された構造が、マルテンサイト組織と呼ばれる組織になります。炭素を含むマルテンサイト組織は、非常に硬く加工が難しいため、焼なましによる熱処理によって硬度を下げてから加工するのが一般的です。
そのため熱処理後は、元のオーステナイト組織の構造内に炭素原子が閉じ込められた状態です。この状態で形成された構造が、マルテンサイト組織と呼ばれる組織になります。炭素を含むマルテンサイト組織は、非常に硬く加工が難しいため、焼なましによる熱処理によって硬度を下げてから加工するのが一般的です。
マルテンサイト系ステンレス鋼の用途
マルテンサイト系ステンレス鋼は耐食性・高強度などの特徴を活かして、次の用途に使用されています。
・シャフト
・ボルト
・ノズル
・包丁などの家庭用品
・耐食直動軸受
マルテンサイト組織は比較的安く入手できるため、用途が広いことも特徴です。
・シャフト
・ボルト
・ノズル
・包丁などの家庭用品
・耐食直動軸受
マルテンサイト組織は比較的安く入手できるため、用途が広いことも特徴です。
まとめ
マルテンサイト系ステンレス鋼は、高強度かつ耐食性に優れるステンレス鋼です。マルテンサイト組織は硬い性質を有するため、加工の際は焼なましをするなどの工夫が必要になります。ステンレス鋼をはじめとして、材料加工を検討されている方は、フィリールまで気軽にお問い合わせください。実績と経験が豊富なフィリールならではの、提案や加工を実施いたします。